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「ニタイ ピリカ」はBL漫画・小説(たまに非BL)の感想を好きなように書いたブログです。ネタバレしてますのでご注意ください…
 

 

 

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電話が鳴って、佐倉は廊下へ出て行った。
一人残った笹田は、問題を片付けた数学の問題集を仕舞い、古文の教科書とノートを出す。
試験範囲を見直し始めた時に、玄関のチャイムが鳴った。
 ドアから廊下へ顔を出すと、まだ電話中の佐倉が苦笑いを浮かべている。
「だから、母さんがいないから俺は知らないんだよ、叔母さん」
 受話器の向こうから年嵩の女性の大きな声がして、まだ電話は切れそうにない。
笹田は階下を指差して、代わりに玄関に出ることを合図した。佐倉は「悪い」と口の動きだけで言い、軽く頭を下げた。
再びチャイムが鳴ったので、笹田は慌てて靴を履きドアを開ける。

「はい」
「…あれ、諒君は留守かな?」
 宅配便かと気軽に思い込んでいた笹田は息を飲んだ。玄関先で笹田を見下ろすのは、雨宮という生徒会長だ。
 あの時部室の裏で佐倉を抱きしめていた、笹田には忘れられない人物。
佐倉をいとおしそうな眼差しで見つめ、嫌がって逃げた佐倉に突き飛ばされていた。
忘れられるはずがない。凛々しい顔立ちは知的な雰囲気もあり、体格も男らしく非の打ち所もなかった。
 硬い表情のまま笹田は見上げ、事務的に告げる。
「今佐倉は手が離せないので、代わりに用件伺いますけど」
「…君は? 諒君の友達?」
「はい。笹田と言います」
 このまま帰ってほしかったのが本心だ。「じゃあ、また来る」と、玄関のドアノブに手をかけて欲しかった。
「ごめん、瑞穂」
 二階から急いで降りてきた佐倉は、そこに雨宮の姿を認め一顔を強張らせる。

「皓一君、」
 名を呼ばれた雨宮は、佐倉へにっこり微笑んだ。
「久しぶり。これうちの母からおばさんにって。ケーキ焼いたみたい」
「あ、ありがとう」
 紙手提げを受け取ると、それきり二人とも黙ってしまった。玄関の空気が重いものに変わる。
「…俺、席外そうか?」
 遠慮がちに尋ねた笹田に佐倉はきっぱりと言った。
「ううん、ここにいて」
 雨宮はちらと笹田を見遣り小さく息を吐き、覚悟を決めたかのように告げた。
佐倉への眼差しは真摯なものだった。
「…この前は、本当に悪かった。嫌がることはしたくなかったのに、俺は最低だ。本当にごめん」
 そこで言葉を切り頭を下げた。そして再び顔を上げたが、目は濡れていた。
「懐いてくれる諒君が可愛くて、兄貴気取りで弟みたいに思ってたけど。段々それ以上になって…。男同士で気持ち悪いだろ? でも俺は、」
「あ! 俺、部屋戻ってるよ」
 佐倉の顔だけ見ながら突然言って、笹田は小走りで階段を上り部屋に逃げるように戻った。
ドアに寄りかかり、深呼吸して気持ちを整える。

 あれ以上、笹田はいられなかった。第三者になって傍観できるわけがない。
真剣に佐倉に気持ちを伝えようとする雨宮に嫉妬し、何も告げないことに決めた笹田自身の決意が揺らぎそうだったからだ。
告白する彼の勇気を羨ましく思い、佐倉との長い付き合いがある雨宮の思い出に嫉妬したのだ。
 両手の震えを止めようと、握ってみたが力が入らない。笹田はよろよろと床に座り込んだ。
「苦しい…」
 嫉妬と認めた雨宮への暗い感情は、やがて笹田の胸にゆっくりと広がって沈んでいく。
 佐倉はなんて応えたのだろうか…。

 その時静かにドアが開いて、佐倉が戻ってきた。
「ごめん、待たせて」
 立ったままの佐倉へを見上げ、笹田は首を横に振る。
「帰ったんだ? 雨宮さん」
 帰ったからここ自室に戻ったのに笹田は確認して訊いた。
「すぐ帰った。ちょっと下でぼんやりしてたから」
 ローテーブルの向かい側に佐倉は座って俯いた。笹田は黙って待っていた。

 長い睫毛が震えるくらい混乱している、佐倉の口から聞きたい。
まだお茶が残っていたグラスを飲み干してから、佐倉は切り出した。
「皓一君は、本当に兄ちゃんみたいだった。母親同士が仲良いせいもあったけど、子供ん時は一緒に出かけたり遊んだりして。地元のサッカークラブに入ったのも、皓一君追っかけたからだし。頭良くて優しいし、本当の兄弟だったらいいなって思ったこともあった」
「うん。あの人カッコいいよ」
「正直言うと、男同士で気持ち悪いって思えなかった」
 笹田はその言葉に慌てた。思わず声も上擦った。
「え? じゃあ、佐倉も雨宮さんのことが…」
 それ以上は怖くて口に出せず、笹田は両手を握り締める。

 佐倉が彼のことを好きならば、二人は両思いで何の障害もない。 
 胸を押し潰すような苦しい気持ちは、孤独感へと姿を変えた。佐倉と雨宮の間に入れない、独りきりの自分。
 まだ知り合って二ヶ月足らず、過ごした時間の長さでは勝ち目はない。
 勝ち負けなんて関係ないのにそう考えた笹田は、己れの卑屈さに嫌気がした。
「瑞穂、」
 名を呼ばれ素直に顔を上げる。笹田を見つめる黒い目は、濡れたように光って吸い込まれそうだ。
「違う、付き合ってほしいとは言われたけど、俺は違うから断った。皓一君をそう思ったこともないし、これからもならないよ」
 そして、口元に微かに笑みが浮かんだ。
「瑞穂は好きな人いる?」
 急に話題が変わったので、笹田は訝しがる。
教室の喧騒の中や下校途中だったら、冗談めかして「いない」とやりすごしていたかもしれない。
だが今は佐倉の部屋で、佐倉と二人きりだ。その好きな人は目の前にいる。

「…いるよ。その人のこと考えて嬉しくなったり、泣きたくなったり。自分でも不思議なぐらい、その人ばかりになってる」
 驚いた佐倉だったが、すぐに平静を装って言う。
「そうなんだ、気付かなかったな」
「誰にも言ってないからね。佐倉に話したのが初めてだよ」
 ふと淋しそうな表情になった。好きな人が出来て恋をして、それなのに笹田は痛みを静かに堪えているかのようだった。
「中々会えないのか?」
 その淋しい顔を佐倉は、相手が他校の女生徒だから物理的に会う機会が、少ないせいなのだと思った。
だがその問いに、笹田は曖昧に微笑んだきり口をつぐむ。佐倉も何も言えなくなってしまった。
笹田は背が低いことや女顔だと自分を卑下していたのを、佐倉は思い出した。
まだ高校一年でこれから成長するだろうし、顔立ちは女顔で一蹴するのは勿体無い容貌だ。
 なのに無頓着というより自身の容姿を嫌っているきらいがあった。卑下する理由を訊かなかったのは、付き合いの短さのせいではないだろう。

 佐倉は後悔した。本当の笹田を自分は見ようとしていなかったのだ、と。 
「俺はいいんだよ、その人が笑っていてくれれば。俺一人が勝手に好きなだけだから。その人は…」
 そこまで言うと声を詰まらせて、笹田は顔を両手で覆った。
「嘘だよ。綺麗ごとばっか並べてんだ、俺。その人を傷つけたくないから秘密にするなんて、自分の言い訳なんだよ。その人に嫌われて傷つくのが怖いんだ。きっぱり諦めたいけど、そんな勇気もなくて見てるだけで精一杯なんだ。それしか出来ないんだよ」
 落ち着いて話そうとした笹田だったが声は震えて、余計に悲痛さを孕み佐倉は思わず目を逸らした。泣くのを堪えているのか肩が小刻みに震えて、その両肩の細さも痛々しい。

 気の利いた言葉も見つからず、佐倉は自然に笹田の肩を抱きしめていた。
細い造りでも男の骨格なのでしっかりしている。それに安心感を得て強く力を込めた。
男同士だとか気持ち悪いとか考えるのより先に、涙を堪えている笹田が悲しくてただ慰めたい一心の行動だった。
「…何、佐倉?!」
 驚いて腕から逃れようとしたが、佐倉の力の方が強かった。
「俺は今まで、誰も好きになったことない。好きになるのが分からないって言うのかな。だから瑞穂の気持ち、ちゃんと分かってやれなくてごめん…。でも泣きたかったら、もう我慢するな」
「俺は…」
 笹田の薄い背中をゆっくり撫でていく。
「つらかったんだな」
「そんなの、…」
 そんなのいいんだ、だって俺が勝手に好きになったんだ。
 つらいのは承知の上で、佐倉に恋しているのだから。
 
 佐倉の肩に顔を寄せると、ほのかな石鹸の香りと佐倉の体温に包まれる。
 初めて抱き締められたのに緊張や恥ずかしさはなく、安心できる温もりに目を閉じた。
「あったかい」
 そう呟いた笹田の目から、涙が落ちる。
 冷たい頬に自分の涙の熱を感じた。
   

涙ガ後カラ後カラト流レ、私ノ心ハソノ涙デトケテユクヨウデシタ。
ソレハ悲シミノ涙デハナク、凍ッタ心ヲ溶カス春ノ水ノヨウニ和ンダ涙ナノデシタ。



                                             終
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立夏

Author:立夏
BL大好きで感想・思ったことなどを、好きなように書いてます。
好きな本ばかりなので、独りよがりなってる自覚はあります。

ほとんどネタバレしてますので、ご注意下さい…。

記事に拍手や拍手コメを、いつもありがとうございます。
拍手コメのお返事は、該当の記事に書かせていただいています。お時間ある時に見ていただけたら嬉しいです☆

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