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「ニタイ ピリカ」はBL漫画・小説(たまに非BL)の感想を好きなように書いたブログです。ネタバレしてますのでご注意ください…
 

 

 

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私ハズットあんどれヲ見ナイヨウニ努力シテイタノニ、ソレハあんどれノ存在ヲ、眼デハナク、皮膚ヤ聴覚ヤソノ他ノ全身的感覚デ、感ジルタメダッタコトハ今デハヨク分ル。



 
五月の連休明けに席替えをして、佐倉は窓際へ笹田は廊下側の席へと離れてしまった。
印刷室の件以来、単なるクラスメイトからお互い挨拶はする仲に昇格はした。それだけでも背中を見ていただけの先月に比べたら、笹田は気持ちが浮き立つのを感じる。
 窓際の列の後ろから二番目の佐倉の席は、笹田の席とちょうど対角線上にある。
休み時間のたびに隣の席の赤名と話すのをいいことに、さりげなく姿を見ることが出来る。
昼休み、今日は食堂に行く者は少なく、いつも以上に騒がしい。
この高校は県内でも偏差値の高さで有名な男子校で、休み時間でもきっちり勉強している笹田のイメージは、入学早々簡単に覆された。
もちろんそういう生徒もいるが、漫画やゲームに興じる生徒も多いし各々が自由に過ごしている。
それは偏差値などには関係のない、どこの高校でも見られる風景だ。
だが今は騒がしくても授業中は当然皆真剣だし、一年の今から大学受験の為塾に通う者がいるのも事実だ。
このクラスにいる生徒はそれぞれの中学では秀才と呼ばれていた生徒達だし、笹田自身も中学三年間は勉強に明け暮れていた。

 塾に入ったばかりの頃は人見知りの性格もあって、嫌で仕方なかった。
ある時授業の一環で書いた読書感想文を褒められたのがきっかけで、知識を得るために勉強する面白さを知ると、教科に関係なく没頭した。
 だが知識一辺倒にはならずその優しげな容貌と、決して頭の良さをひけらかさない控えめな性格の笹田を嫌う人間は少なく、それなりに友人もいた三年間を過ごせた。
この学校にもクラスは違うが同じ塾の友人はいるし、新しいクラスでも趣味の合う友人も出来てそのグループに自然に入っていた。

 パック入りのお茶を飲みながら、笹田は窓を見る振りで佐倉へと視線を送る。
彼はおにぎりを食べながら文庫本を読んでいた。
佐倉は大抵一人だった。頬杖を付きながら本を読んだり、音楽を聴きながら窓の外をぼんやり見ていたり、一人でも苦痛を感じないタイプのようだった。
たまに他のクラスの友人らしい、背の高い生徒がやって来る以外は好んで一人でいるように笹田には思えた。
 黒く光っていた大きな瞳で見つめられ、自分の名前を褒められたあの時。
初めての経験で訳が分からず、適当なお礼を言ってその場は終わった。
その後は佐倉の顔をろくに見れないまま作業を終えた。
 その反動なのかこうして休み時間、何気ない振りを装って佐倉の姿を見つめてしまう。
黒い髪は短く頭の形の良さを際立たせ、鼻筋も通って唇は薄く形が良い。
何より黒目がちの濡れたような瞳が印象的だ。その顔立ちは、男子ばかりのこの教室でも目立っていた。
 一日に何度も笹田は彼を見つめては、何の本を読んでいるのか何の音楽が好きなのか、訊きたい衝動に駆られる。しかしまだ訊けずにいて、こうして横顔を眺めているだけだった。
「何見てんの?」
「…えっ? あ、」
 危うく「佐倉」という名前を飲み込むと思わず立ち上がり、反動で揺れた机の上から箸と弁当箱のフタが派手な音をたてて落ちた。
「笹田、鈍くさいな~」
「何やってんだよー」
「悪い。あー、焦った」
 友人二人に笑われて済んだことで、笹田は内心ホッとした。
 決して気付かれてはならない。友人達にもそして、何より佐倉自身にも。
 こんなにも見つけてしまう、目が彼を求めてしまう笹田にさえ名前の付けられない、この初めての感情を。


 放課後図書室に寄る笹田は友人と別れて、一人で階段を登っていた。
HRが終わって、佐倉はすぐに教室を出て行った。何か急ぎの用でもあるのか、片手に携帯を握り締め出て行った後姿が笹田には引っ掛かっていた。
三階の一番奥の図書室には、既に生徒が数人大きなテーブルで静かに勉強をしている。
笹田も窓際の席にカバンを置いて、風を入れようと窓のそばに近寄った。
グランドの隅の部室の建物の近くに、二人の生徒が見えた。
遅れて歩く生徒の姿勢の良い、すらっとした後ろ姿は佐倉だ。
 ずっと佐倉の背中を見ていた笹田には、妙な自信があった。
間違いない佐倉だと確信すると、途端に先を歩く生徒の存在が気になる。佐倉の元にたまに休み時間に来る生徒とは違う。佐倉より気持ち背が高く広い肩幅。
振り返って佐倉へ向けた笑顔を見た途端に、笹田はカバンを取り図書室を後にしていた。 
 階段を急いで駆け下り、昇降口で他の生徒を避けながら靴に履き替える。
部活に入っていない笹田は、二人のいた部室の建物のある場所には行ったことがなかった。
だが逸る気持ちと裏腹に、頭の中はくっきりと校内の地図が浮かんでいる。
小走りにグランドの奥を回りコンクリートの建物が見えてきたら、笹田は歩みを止めた。
 言い争うような声がする。無意識に手前の用具室の建物の陰に隠れた。
こんなのは覗き行為であって、褒められることではない。頭ではそう理解しているのに、こっそり様子を伺う自分に嫌気がするのに、笹田の足はその場から動かない。
言い争う声が段々大きくなり、部外者の笹田の手の平はじっとり汗をかいている。喧嘩になりそうだったら止めに入ろうと、一歩前に踏み出した時に佐倉の声がした。
「離せよ!」
 相手の生徒に抱きしめられた佐倉が抵抗して、そのまま相手を突き飛ばす。
 相手はよろめいて部室の壁に強くぶつかった。佐倉は躊躇していたようだったが、生徒を一度も振り返らずに走り去った。
 何が起こったのか理解できずにいた笹田だが、すぐに佐倉の後を追った。
覗いていた自分の立場をわきまえず、とにかく追わなければいけない、使命感のような気持ちで。
「佐倉! 待って!」
 予想以上に足の速い佐倉に追いつくために、結局笹田は名前を呼んだ。
彼が止まらない限り追いつけないほど、佐倉の足は速かったのだ。
「足、速いな…」
 肩で息を整えながらそう呟き、ゆっくり佐倉を見上げると目が真っ赤だった。
そして目を見張った驚いた表情と、咎めるような口調で言う。
「笹田、何で?」
 指で目尻をさっと拭う仕草に笹田の胸が痛む。
あの綺麗な目が赤く、でも黒目が更に光って涙で濡れたせいか睫毛がより黒く見えた。
笹田はこんな時でも、作り物のように綺麗だと思う。
「ごめん、佐倉。俺、図書室から見かけて後追っかけたんだ。声かけられなくて、覗いちゃって言い訳出来ない。…本当にごめん」
 頭を深々と下げる。佐倉にとっては誰にも見られたくなかったはずだ。
「佐倉が気になったから」は、理由にならないのは笹田はよく分かっている。
佐倉が許してくれなくても、自分には謝るしかないことも。
 地面を見ていたら、佐倉の靴が一歩近寄った。 
「…顔上げてよ」
 恐る恐る上げると真近に佐倉が立っていて、笹田は頬が熱くなるのを他人事のように感じる。
 目の前の佐倉を見上げ、ほんの少しの勇気が消えないようその顔から目を逸らさずに言った。
「あの、出来ればでいいんだけど、友達になってほしいんだ。佐倉は一人が好きかもしれないけど、もし誰かといたい時とか、話したい時とかあったら俺に話してくれたら…。頼りないかもしれないけど。あ、嫌ならはっきり言っていいから。…ごめん、急にこんなこと言って、」
 勢いで告げたものの、その勢いも段々尻すぼみになって再び笹田は俯いてしまった。
人見知りなはずがこんな告白をしている自分を、笹田は自身のことなのにいぶかしく思う。
しかも言ってることは支離滅裂だ。
ただはっきり解っているのは、佐倉をもっと知りたいこと。佐倉の近くにいたいこと、それだけなのだ。
 笹田にとっては長い沈黙の時間だった。断られても仕方ない、なら諦めようときつく目を瞑る。
 だが小さい笑い声がした。
「うん。じゃあ、とりあえず帰る?」
 笑った佐倉は可愛かった。
「…ありがと、佐倉」
 やり取りを覗いたことを一言も責めない優しさも可愛いと思い、笑顔がもっと見たいとも思った。
するとまた、胸がちくりと痛んだ。

 二人とも電車通学なのがわかって、駅へ向かった。
佐倉は歩きながら、ぽつりぽつりさっきのやり取りについて語りだした。気になってはいたが、訊けずにいた笹田を彼なりに気遣って自分から話した気がした。
「さっきの人は三年生で、俺の近所で幼馴染みたいな人なんだ。子供ん時から遊んだり受験勉強も教えてもらったりして。俺は一人っ子だから、お兄ちゃんみたいに思ってたんだけど…」
 口ごもった佐倉が唇を噛み締めていた。恋愛事に鈍い自覚のある笹田にも、その続きは予想がつく。
それ以上言いたくない佐倉の気持ちが痛いほど伝わって、あえて話題を変えた。
「あの人、見たことある気がするんだけど、俺の気のせいかな?」
「生徒会長だよ。入学式に挨拶していたから」
 ああ、と笹田は納得した。壇上で堂々と挨拶をしていた、メガネをかけて知的な風貌を思い出した。
確か雨宮、と言った。
「それにしても、よく気付いたな。俺のこと」
「あ、うん…。たまたま図書室から見えたんだ、佐倉とその生徒会長が」
 本当のことは告げてはいけない気がして、それ以上やめた笹田は解ってしまった。
三階の窓から見えた雨宮の笑顔。あれは恋する人を見つめる笑顔だということを。
 柔らかさも甘さも含んだ眼差しの先には、佐倉という愛しい人がいたのだ…。
「笹田? 携帯忘れた?」
「あ、ごめん。ある」
「謝ってばかりだな」
 苦笑した佐倉に照れ笑いで返し、携帯を取り出してメアドの交換をする。
下校の高校生ばかりの改札を通って、人の流れから距離があるポスターが貼られた壁の近くに佐倉を誘う。
「どうした?」
「あのさ、…もしまた同じようなことあって、一人がイヤだったら俺を呼んで? すぐ行くから。俺の方がチビだし何出来るかわかんないけど、でも二人の方がいい時もあるかもしんないし…。ごめん、よくわかんないよな」
  またしどろもどろになってしまい、もどかしさと自分への苛立ちを拳を握って堪えた。
どうして上手く言葉にならないのだろう。佐倉を目の前にすると、言いたいことの半分も言えない。
自分へのもどかしさを笑顔で誤魔化した笹田を、佐倉はじっと見つめる。
「うん。分かった」
 あっさり答えを返してくれた佐倉を、信じられないとばかりに笹田は黙って見つめ返すしか出来ない。
ゆっくり実感するにつれ、笹田の喉の奥がつんとしてきた。
「笹田のこと瑞穂って、呼んでいい?」
「え、呼んでくれんの?」
「俺が訊いてるんだよ」
 佐倉が少し笑う。佐倉が笑うと笹田は嬉しくなった。嬉しいのになぜか泣きそうになる。
瑞穂、とあの声が自分を呼んだ。
綺麗な名前だと言ってくれた人が呼んでくれる。
嫌いだった名前が、嘘のように美しい響きを持った。

 それがこんなに幸せな気持ちになることを、笹田は初めて知った。
 そして同時に泣きたくなることも知ったのだった。


                                            続く
 
 

 


 



 


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立夏

Author:立夏
BL大好きで感想・思ったことなどを、好きなように書いてます。
好きな本ばかりなので、独りよがりなってる自覚はあります。

ほとんどネタバレしてますので、ご注意下さい…。

記事に拍手や拍手コメを、いつもありがとうございます。
拍手コメのお返事は、該当の記事に書かせていただいています。お時間ある時に見ていただけたら嬉しいです☆

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